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あとがき17 歴史学は世界を良くするか:手嶋泰伸『日本海軍と政治』(講談社、2015年)

 

日本海軍と政治 (講談社現代新書)

日本海軍と政治 (講談社現代新書)

 

歴史と歴史学は、似て非なるものだ。少なくとも、私はそう信じている。歴史上の出来事や人物について、気の遠くなるほどの膨大な知識を持つことと、歴史学をするということは、全く別の話だ。歴史学の研究者とは、過去の出来事や人物について、単純にたくさんのことを知っているだけの人なのではなく、歴史を使ってさまざまな思考ができる人のことであると思っている。もちろん、思考をする前提として、歴史的な事実が厳密かつ正確に確定されている必要があり、その基本的な手続きは絶対におろそかにされてはならない。歴史学の研究とは、あくまでも実証的であるべきだ。だが、歴史学が単に新たな事実を発見することだけに目的を置いたものではなく、発見された歴史的事実を用いて思考をし、現代社会にとって意味ある知を生み出すことを使命とする専門技術であるとするならば、その知を社会に少しでも還元していくことで、自らの存在意義を確認したいという思いも、恥ずかしながら持っている。

引用したのは、手嶋泰伸『日本海軍と政治』の「あとがき」の冒頭だ。
本書は、アジア・太平洋戦争に関する海軍善玉・悪玉論争を超えた視点から、官僚組織としての海軍の逆機能を論じたものであり、官僚制通有の教訓が得られる良書だ。

「あとがき」の末尾はこう結ばれている。恥ずかしながら、自分も同じ気持ちを持っている。

海軍について、非難から思考へと関心が移ることで、世界はもう少し良くなりはしないかと、青臭く、大それた淡い期待を捨てきれずにいる。お笑いください。