あとがき愛読党ブログ

本文まで読んでいることを保証するものではありません

あとがき34 書名は短いほうがいい?:東川徳治編『典海』(法政大學出版部、1930)

学術的な編纂物の名は、短いほうがなぜか本格的な感じがしませんか? たとえば、小学館『日本国語大辞典』は、これ以上ないシンプルかつ力強い書名だが、すこし味気ない。東京大学出版会が刊行している『古語大鑑』は、よくぞその書名で出してくれたという感…

あとがき33 索引になった男:『群書索引・広文庫概要』(昭和51年4月6日)

Great Books of the Western World という名著全集の特徴は、このためにモーティマー・J. アドラーによって考案されたシントピコンにあるという。 第1巻と第2巻は、シントピコン索引で構成されています。シントピコン索引を利用すると、特定の主題、たとえば…

あとがき32 「価値自由」をめぐって:安藤英治『マックス・ウェーバー研究』(未来社、1965)

かつて私は、「あとがき」の必要性を論じて以下のように書いた。 しかし、私はあえてあとがきの必要性を説きたい。 あとがきはなぜ必要なのか?それは、「経験」(「私事」)と「学問」との関係にわたる問題なのだ。 マックス・ウェーバーの議論を引くまでも…

あとがき31 陰謀はどこだ?:フィリップ・ロス『プロット・アゲンスト・アメリカ』

2018年5月、アメリカの作家・フィリップ・ロスが世を去った。本記事はロス追悼のため開かれた読書会「ロスろす会」で私がしゃべったペーパーが元になっている。 課題書 フィリップ・ロス作・柴田元幸訳『プロット・アゲンスト・アメリカ―もしアメリカが…―』…

あとがき30 奥書の1945:相田二郎写「書札次第」

本ブログ初の、奥書記事である。 相田二郎(あいだ, にろう, 1897-1945)は東京帝国大学史料編纂官の中世史家、古文書学者であり、佐藤進一の師匠格としても知られる。惜しくも終戦間近に夭逝したが、もし戦後も生きのびていれば、黒板勝美・辻善之助亡き後…

あとがき29 注の多い本:石井良助『新版 中世武家不動産訴訟法の研究』(高志書院、2018)

瀬野 昔の方の論文には、註はありませんものね。註ができたのは昭和に入ってからくらいでしょう? 註というのは読む人に一々後ろを見ろというもので失礼だと言われた年輩の先生もいらっしゃった。 ―玉村 竹二, 瀬野 精一郎, 今泉 淑夫「禅宗史研究60年―上―(…

あとがき28 未発の可能性:『原平三追悼文集』(私家版、1992)

年の瀬、京大前の古本屋で珍しいものを見つけた。 戦前の、シリーズものの予約募集冊子である。日本史関係でいくつか買うことにしたが、まったく知らなかったシリーズものばかりでおもしろい。 たとえば、蛍雪書院なる版元の、『歴史學叢書 日本研究篇』なる…

ライトニングトーク:「1192(イイクニ)作ろう鎌倉幕府」は なぜ消えたのか

忘年会で即興でライトニングトークをやらされることになったので、ブログで再現します。題して、「「1192(イイクニ)作ろう鎌倉幕府」はなぜ消えたのか」。 忙しい方は、スライド部分だけ飛ばして読んでもらっても大丈夫です。 お話させていだだきます。 鎌倉…

ジョジョ実写映画はけっこうおもしろかったです

ジョジョファンです。雑誌もコミックスも欠かさず買ってます。 第4部が実写映画化すると聞いて、超不安でした。「胃がケイレンし胃液が逆流した。ヘドをはく一歩手前さ!」って気持ちでした。 warnerbros.co.jp でも原作ファンなので劇場に行きました。そし…

あとがき27 バブル期の日本人がどれだけバグってたか見てほしい: 叢書「思想の海へ [解放と変革]」刊行のことば(社会評論社、1989)

自分は中高生のころ岩波文庫の末尾にある岩波茂雄の(実は三木清の草なんだって)「読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して―」が好きで好きで、何度も読み返して、「読者は自己の欲する時に自己の欲する書物を各個に自由に選択することができる。」の文に動かさ…

あとがき26 デジタル人文学のために?:大森金五郎編『史籍解説』(三省堂、1937)

先日古本屋で、大森金五郎編『史籍解説』という小さな本を買った。これは戦前に作られた史籍専門の解題集(初版は1937年、三省堂。のち覆刻版が1979年に村田書店から出る。私が買ったのは復刻版)で、『古事記』だとか『吾妻鏡』だとかの書名を挙げたのち、…

あとがき25 或る古文書学徒の死:勝峯月渓『古文書学概論』(目黒書店、1930)

古文書学入門 作者: 佐藤進一 出版社/メーカー: 法政大学出版局 発売日: 2003/03 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 27回 この商品を含むブログ (5件) を見る 佐藤進一『古文書学入門』には、参考にすべき古文書学の名著が冒頭に掲げられている。一人の…

あとがき24 憲法上諭誤記事件を検証する:大日本帝国憲法(1889)

なんと今回は憲法の話だ。もちろんブログのポリシー通り、本文には一切触れない。 1889年(明治22)2月11日、大日本帝国憲法が発布された。その華やかな式典のウラで、3つの珍事件が起きたことが伝えられている。・伊藤博文枢密院議長が、式典で使う憲法原本…

あとがき23 原態本の発見?:丸山眞男『現代政治の思想と行動』(未來社、1956-57)

あとがき愛読党員たるもの、かの丸山眞男の名著『増補版 現代政治の思想と行動』の「増補版への後記」にいつかは向きあわなくてはならない。今回はそれへの布石ということで、その旧版についての小ネタを取り上げたい。 〔新装版〕 現代政治の思想と行動 作…

あとがき22 あとがき史上最高傑作!:諸橋轍次『大漢和辞典』(大修館書店、1955-60)

ある方からこんなことを言われた。「最近キミのブログ、本文のこと書き過ぎ!」 ギクリ。確かに最近、あとがきにひっかけて書きたいことを書くばかりで、肝心のあとがき自体と真剣に向きあってないかもしれない。図星だった。 そこで改めて、誰もが読んでお…

あとがき21 人生有限、学無窮:竹内理三編『鎌倉遺文』(東京堂出版、1971-1995)

みなさん、歴史家・竹内理三(1907~1997)をご存じだろうか。 かつてある古代史のゼミで、先生がこう宣言した。「みなさん、塙保己一と竹内理三には足を向けて寝てはいけませんよ」 もちろん塙保己一は、江戸時代に『群書類従』を編纂した盲目の大学者だ。…

あとがき20 【祝・世界記憶遺産】「東寺百合文書」以前: 網野善彦『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)

ユネスコの記憶遺産(世界記憶遺産)に、東寺百合文書が認定された。 www.asahi.com 日本のものが認定されてうれしいという以上に、東寺百合文書を保存し、整理し、公開してきたたくさんの人々、とくに所蔵している京都府立総合資料館の人々の尽力が報われた…

あとがき19 模倣と妄補:江戸川乱歩著、宮崎駿カラー口絵『幽霊塔』(岩波書店、2015年)

宮崎駿が長編映画製作を引退するといってからはや2年。 三鷹の森ジブリ美術館で「幽霊塔へようこそ展」がはじまった(2015年5月30日(土)~2016年5月(予定))。 <a href="http://www.ghibli-museum.jp/news/009744.html" data-mce-href="http://ww…

あとがき18 絶対泣ける!?追善供養としてのあとがき:辻善之助『日本仏教史之研究』等

画像は1934年頃、東京帝大史料編纂所の職にあったころの辻善之助検印。花押状の印を用いている。出典 泣ける映画の王道テーマは、やっぱり「死」だろう。 家族、恋人、師匠、別離、余命、病気持ちなどバリエーションは豊富だ。 本のあとがきでも、追悼など「…

あとがき17 歴史学は世界を良くするか:手嶋泰伸『日本海軍と政治』(講談社、2015年)

日本海軍と政治 (講談社現代新書) 作者: 手嶋泰伸 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2015/02/27 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 歴史と歴史学は、似て非なるものだ。少なくとも、私はそう信じている。歴史上の出来事や人物について、気の遠…

あとがき16 奥出雲から流出した仏像たち:映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014年、オランダ)

この間、劇場で映画『みんなのアムステルダム美術館へ』を観た。 <a href="http://amsmuseum.jp/" data-mce-href="http://amsmuseum.jp/">映画 『みんなのアムステルダム国立美術館へ』公式サイト</a> 映画 『みんなのアムステルダム国立美術館へ』公式サイト 前作『ようこそアムステルダム国立美術館へ』(2008)に引き続き、美術館の…

記事紹介: 「あとがきに見る著者」(「法藏館ブログ編集室のつくえから」より)

仏書で名高い京都の法藏館さんのブログで、「あとがき」についてたいへんよくまとまった記事が書かれていましたので、紹介したいと思います。 編集室の机から_あとがきに見る著者 とっつきにくい難解な研究書・専門書のなかでも、例外的に著者の本音と人間味…

あとがき15 もっとも短い「はしがき」: 野中哲照『後三年記の成立』(汲古書院、2014年)

もっとも簡潔な「はしがき」に出会ってしまった。 はらりと表題紙をめくると、左右にたっぷりと余白のあるページが現れる。その中央に、ほんの少し大きいポイントの活字で以下の文言のみが記されている。 はしがき 従来、貞和三年(1347)とされてきた『後三…

あとがき14: 『人生はニャンとかなる!』(文響社、2013年)とそれみたいなもの

■ウェブ書影展「『人生はニャンとかなる』とそれみたいなもの」によせて 2014年の書籍年間ベストセラーが日版によって発表されました。 年間ベストセラー | ベストセラー一覧 | 日本出版販売株式会社 去年の総合1位は村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、…

あとがき13 ジョジョ4部小説、そして書き続けていた男:乙一『The Book 』(集英社、2007年)

2015年到来! 今年、1月からジョジョ3部アニメ「エジプト編」がいよいよ放送開始され、関係イベント、コラボ、グッズなど、今年のジョジョファンにはお楽しみがいっぱいです。 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;a href="http://jojo-animation.com/" dat…

あとがき12 卒論を断固出すための「断念」術: 小峯和明『今昔物語集の形成と構造』(笠間書院、1985年)

■あとがきより 年末ですね。卒論シーズンですね。この時期、さる本のあとがきを思い出します。 論文は科学を装った詩であり、論文を書くとは断念することだ。 ―小峯和明『今昔物語集の形成と構造』(笠間書院、1985年) 今昔物語集の形成と構造 補訂版 笠間…

あとがき11 著者名を信じるな!? :大類伸『列強現勢史・ドイツ』(冨山房、1938年)

大類伸(オオルイ, ノブル, 1884-1975)という、変わった名前の大物西洋史家がいた。東北大の教授だった人物だ。ルネサンス研究など文化史で一ジャンルを築き、日本の城郭史にも詳しい。国会図書館の目録で調べると、大類の著作は100以上引っかかる。本来の…

あとがき10 あとがきを信じるな!?: 網野善彦『無縁・公界・楽』(平凡社、1978年)

このブログのあとがき愛読もようやく10回目。それを記念し、今年没後10年の網野善彦を取り上げたいと思う*1。 無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150)) 作者: 網野善彦 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 1996/06 メディア: 新書 購…

あとがき9 「つきあい」の可視化: 河野有理編『近代日本政治思想史』(ナカニシヤ出版、2014年)

瓦経というものをご存知だろうか。 粘土板にお経を刻んだものだ。 瓦経|奈良国立博物館 なぜか平安時代ごろから、この瓦経を大量に作って土に埋めることが流行りだした。 それが父母の供養や自分の極楽往生に効くと思われていたらしい。 瓦一枚につき200字…

国会図書館デジコレで中世史! 叢書編

国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)がWEB公開している資料は、約35万点。その膨大な書籍のうち、日本中世史の研究に役立つ文献をリストアップするのがこの記事の目的です。 まずはその第一段として、叢書類(日記や編纂物、軍記など)、および…